契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 室内は一瞬静まり返った。東雲を除く全員が、驚きに眼を見張っている。
 希実が最初に我に返れたのは、彼の手の温もりのおかげだった。
 そっと重ねられた大きな掌が、やんわりとした圧と熱を伝えてくる。それが、途轍もなく安堵をもたらす。
 不思議と慰められている気分になれた。

「あらまぁ、娘をそこまで思ってくださるなんて! 親として嬉しいわぁ」

 やや妙な空気になりかけたのを、明るい母の声が壊した。
 今回ばかりは、空気を読まない母がありがたい。
 父も引き摺られるように笑い出し、刹那の緊張感は霧散した。

 ――私のことを庇ってくれたのかな……

 少しだけ辛い気持ちになっていたのを見抜いたのか。
 ハッキリと励まされたのではなくても、背中を支えられたような心強さがある。
 希実が欲しいと願いつつ、自覚のなかった言葉を、東雲がくれたのかもしれなかった。

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