契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 まさか実家からの帰り道、見事に言い包められ、日曜日には東雲のマンションの一室に希実の部屋ができあがっていたなんて、いったい誰が信じるのか。
 希実自身、『現実の速度について行かれない』と思っているのだ。
 とはいえまだ、部屋に置かれた家具はベッドのみ。
 専用のウォークインクローゼットには、持参した下着や最低限の服が控えめに置かれていた。
 彼が用意してくれた部屋は、希実がこれまで一人暮らしをしてきたマンションの一室(バストイレ、キッチンを含む)よりずっと広い。
 白い壁紙はよく見ると模様があって、繊細な品の良さだ。同色の天井はとても高くて清潔感が漂っている。
 床は柔らかさを感じる木目調。ところどころ色味が違うのが、お洒落だと思った。
 今後は希実が好きなように家具を選び飾っていいと言われている。
 気に入らなければ壁紙や床材を変えてもいいとも。
 到底そんな気にはなれず、速やかに断ったのは言うまでもなかった。

 ――落ち着かないな……このベッドだって急遽取り寄せたんだよね? しかも寝心地が悪かったら買い換えようって言っていた。いやいや、これ……家具に詳しくない私でも知っている有名ブランドのものでしょう? いったいいくらするの……

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