契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 実際、腰かけた感触は極上だ。
 おそらく寝心地も最高に決まっている。
 普通なら何度も店に足を運び、製品を直に確かめて、吟味を重ねた挙句、清水の舞台から飛び降りる覚悟で購入を決めるレベルの品だ。
 おいそれと『チェンジで!』などと言うのは、確実に罰が当たる。
 むしろこの高級なベッドに希実が相応しいのかという話だった。

 ――うぅ……部屋に置いてきた狭くて硬いシングルベッドが恋しくなる日がくるなんて……

 特別気に入っていたのでもないが、今は妙に懐かしい。
 希実は新品の寝具を摩りつつ、無意識に溜め息を漏らした。

「――片づけは終わりましたか? こちらで一息つきませんか?」

 扉がノックされ、希実は素早く立ち上がった。
 片付けも何も、着替えを数枚クローゼットへ収納し、基礎化粧品などを置いただけだ。
 それこそ旅行に行く時よりも荷物は少なかった。
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