契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 あまりにもやることがアッサリ終わってしまい、『さてどうしようか』と迷っていたところだったのだ。

「は、はい。今行きます」

 正直部屋を出るタイミングも掴みかねていたので、丁度良かった。
 声をかけてもらえたのを機に、希実は扉を開ける。
 そこには、いつもよりもラフな格好をした東雲が微笑んでいた。
 だらしなくは見えない、質のいいスウェットパンツとロングTシャツ。
 隙のないスーツ姿ばかり眼にしていたので、新鮮だ。髪形も崩されて、まさに『オフ』なのだと分かった。

 ――こういう格好もするんだ……でも、すごく似合っている。格好いい人は、何を着ても素敵に見えるんだわ……

「希実さんも楽な格好に着替えて大丈夫ですよ? もしかして部屋着は持ってきませんでしたか?」
「え、いいえ。あります。で、でもこのままで平気なので……!」

 一応お気に入りの部屋着は持参していた。
 だが、この流れで『それでは』と着替える勇気はとてもない。
< 130 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop