契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 何せダルンダルンに伸びたTシャツに、毛玉だらけのカーディガンである。しかも下は寝間着感強めのパンツ。
 そんな恰好で彼の前に立つなんて、想像しただけで意識が遠退きかけた。

 ――無理……いくら私でも恥ずかしい……!

 どうして可愛いと評判の、女子に人気がある部屋着の一つや二つ所持していなかったのか。
 自分を責めても、洒落た服が降って湧くはずもない。
 曖昧にごまかして、希実は早急に見られても問題ない部屋着を購入しようと決めた。

 ――決めた。今日中に通販しよう。出費は痛いけど、しょうがないわ……

 他人と暮らすのも大変だなと仄かな後悔が胸を過る。だが鼻腔を擽る香しいコーヒーの香りに、もやもやは押し流された。

「え……コーヒーを淹れてくれたんですか?」
「ええ。あ、紅茶や緑茶の方がよかったですか? 美味しいチョコレートケーキがあるので、コーヒーの方が合うと思ったのですが……」
「あ、いいえ不満だったわけじゃありません!」

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