契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「それから、また『私なんか』と言いましたね?」
「え」

 愉悦を孕んだ東雲の声に、希実は狼狽えた。
 口の端から、ケーキの欠片がポロッとこぼれる。
 落としかけたフォークが皿とぶつかって音を立て、そちらに気を取られた刹那の隙に、彼が腰を上げていた。

「ペナルティです」
「……!」

 座ったままの希実の横に影が差す。
 東雲がすぐ脇に立ち、見下ろしてきた。その眼差しは複雑な色をして、希実の内側を騒めかせる。
 泳ぐ視線は、艶めいた彼の笑みに搦め捕られた。
 頬に添えられる男の掌に、そっと上向かされる。
 決して強引な素振りではない。けれど抗えなかった。
 顔を軽く横に傾けられ、ゆっくり東雲が近づいてくる。
 殊更時間をかけられているのは、ひょっとしたら希実に逃げる隙を与えてくれているのかもしれない。
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