契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 無理やり彼の身体を突き飛ばせない理由には、思い至らず。
 幸いにも、希実が呼吸困難で意識を飛ばす前に、口づけから解放された。

「……慣れてくださいね。僕らが本物の夫婦に見えるよう、これからも自然な接触は取り入れていきましょう」

 クラクラ眩暈がする。
 霞む視界の中、東雲が濡れた唇を親指で拭っているのが視認できた。
 ほんのりと紅潮する男の頬が非常にいやらしい。官能的で、ゾクゾクする。
 希実の見知らぬ感覚が体内を駆け抜け、無意識に膝を擦り合わせた。
 もし今自分が立っていたら、きっと腰が抜けていたに違いない。それくらい全身が虚脱していた。

「ど、どうしてキスなんて……っ」
「僕らは夫婦です。これくらい普通でしょう? 普段から慣れておかないと、周囲に疑われかねませんよ。微妙な空気感は、案外他人にも伝わるものですから」

 そうなのだろうか。
 希実には未知の世界だ。
 しかも今は頭がぼぅっとして、思考は全く纏まらなかった。
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