契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ひたすらに鼓動の音が煩い。
 どこもかしこも汗まみれ。
 脳はのぼせてしまったのか、何も考えられなかった。

「け、契約では、私たちは全部振りだけだと……!」
「もっともらしい嘘を吐くには、適度に真実を織り交ぜるのが一番です。それでこそ信憑性が増す。僕たちは互いに運命共同体です。この契約結婚を成功させるため、僕だけでなく希実さんにも頑張ってもらわなくてはなりません」

 そこで一度言葉を切った彼が、強い眼差しでこちらを射抜いてくる。
 まっすぐな瞳から逃げる術は存在しなかった。

「今の希実さんは、僕が手に触れただけでも緊張で固まってしまうでしょう? それではあまりにも不自然です。飯尾さんならすぐに僕たちが『他人』だと見抜くでしょう。だからせめて軽い接触が日常になるよう、慣れてください」
「な、慣れる……?」
「はい。何事も練習です。経験を積めば、これしきの事で動揺しないようになりますよ。安心してください。希実さんが本気で嫌がることはしないと約束します」

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