契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 これもまた、彼ならではの気遣いなのか。
 偽物であっても妻がダサいと困るのだろうかと、ついつい疑心暗鬼になる。
 そうでないなら、希実は『自分なんかを連れ歩きたいわけがない』と言葉にしかけ、慌てて打ち消した。

 ――頭の中で考えただけの『なんか』はセーフでも、用心に越したことはないわ……そういう発想があるから、つい口を突いちゃうんだもの……!

 これからは重々発言に気をつけねば。
 でないとまた、ペナルティと称してキスされてしまう。
 未だ唇に残る感触が生々しく、希実は淫猥な妄想を振り払った。
 経験値が乏しい自分には刺激が強過ぎる。
 先ほどの口づけを思い出すだけで、その場を転げまわりたいくらいの羞恥に襲われた。

「初デートですね。ああ、ホテルで食事をしたのが一回目とカウントすると、二回目かな」

 対照的に東雲は平然としたものだ。
 椅子に腰かけると、残りのチョコレートケーキを食べ始める。その上希実と眼が合うと、悪戯な仕草で一口分を切り分けた。

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