契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「僕の分も食べますか? どうぞ」

 差し出されたフォークには、美味しそうなケーキが刺さっている。
 それが希実に向けられているのだ。
 つまり『あーん』を求められているのが、鈍い希実にも理解できた。

「なっ、は、ぇッ」
「ほら、早く食べないと落ちてしまいそうです。口を開けてください」

 ――私は今、何を言われているの……?

 なけなしの平常心が脆く崩れる。
 チョイチョイと動かされるフォークには、何らかの魔法でもかかっているのか。
 いつもの希実なら狼狽したまま動けなくなるのに、今日に限って引き寄せられた。
 まるで操られているよう。
 実際、彼の声には生まれながらに『人を従わせる才能』がある気もする。
 弱者は強者に逆らえない。希実は紛れもなく前者だった。
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