契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 惑いつつ開いた口の狭間に、ケーキが押し込まれる。
 引き抜かれてゆくフォークが僅かに唇を掠め、得も言われぬ淫靡さを感じた。
 その間、視線は絡んだまま。
 逸らすことも瞬きすることもできず、希実は口内のケーキを咀嚼した。

「……美味しいですか?」

 味が感じられない。
 つい数秒前まで途轍もなく美味しかったものが、今はもう何が何やら分からなかった。
 ただ夢中で噛み、懸命に飲み下す。
 嚥下する喉の動きまで見守られ、希実は初めての昂ぶりを覚えた。

 ――ただケーキを食べているだけなのに、とても卑猥に感じる……

 おそらくそれは自分だけの勘違いではない。
 何故なら東雲の双眸には不可解な熱が横たわっていた。
 一瞬たりとも希実から逸らされず、妙に熱い。
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