契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 火傷しそうなほどなのに、燃え移ることはない焔。
 それが彼の瞳の奥で揺らいでいた。

「また買ってきますね。他にも希実さんが好きなものがあれば教えてください。夫が妻に尽くすのは、当然のことですから」
「で、でしたら私も精一杯、夫である東雲さんに尽くします。何でもおっしゃってください。何でもします……!」

 ようやく呪縛が解けた喉に力を籠め、希実は声を絞り出した。
 相変わらず心音は煩い。火照りが末端まで広がってゆく。
 チョコレートケーキに使われている洋酒は少量で、ほぼアルコールは残っていないだろうに、まるで酔ってしまったかのようだ。
 ふわつく酩酊感に背中を押され、希実は自覚なく大胆なことを宣言した。
 すると、彼が眼を細める。
 瞳の奥の焔が、火力を増した気がした。

「何でも? 軽率にそんな約束をしては危ないですよ」
「軽率ではありません。東雲さんは私の、お、お、夫なんですもの」

 実感は正直ないが、これから婚姻届を提出すれば、二人は本当に夫婦になる。
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