契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 背筋を伸ばし、希実は身構えた。
 自分に至らない点が多々あるのは分かっている。東雲のような人間から見れば、希実など直すべき欠点だらけに違いなかった。
 それでも秘密を共有するパートナーに選んでくれた恩を返したくて、真摯に耳を傾ける。
 どんなに辛辣な指摘であっても、謙虚に受け止めようと思ったのだ。

「僕たち、あまりに他人行儀ですよね。もう少し砕けた喋り方に変えませんか。手始めに、呼び名の敬称はなしで敬語もやめましょう」
「えっ」

 希実には『東雲さん』と呼び方を変えるだけでも相当な勇気がいった。
 だが今度は更なるステップアップを求められている。それも前回の比ではない。
 一気に距離が大接近すると同然の変化に、頭が追い付いてこなかった。

「や、流石にそれは……」
「練習すれば大丈夫ですよ。――希実」

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