契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 しかも幸か不幸か、本日花蓮は有給を取得している。
 彼女がいないことで、仕事中でも平気で私語に耽る空気がないのだ。

 ――それに飯尾さんが明日朝までに仕上げるはずだった資料が、手つかずのまま残されているしね……!

 彼女に限って、家に持ち帰り完成させるとは考えられない。
 おそらくは完全に忘れているか――放置しておけば希実がやらざるを得ないと計算の上なのか――どちらにしても、明日地獄を見るくらいならとっとと作ってしまった方が正解である。
 諦めの境地で、希実は午前中鬼気迫る勢いでキーボードを打ち込んでいた。
 ということで非常に忙しいのが真実故に、同僚たちは東雲との結婚話が気になっていても、希実を突っつけないのだ。
 下手に関われば、花蓮の仕事を分担しなくてはならない故に。
 が、他部署の人間には、そんな事情は関係ない。
 希実の姿を見かけた途端、あちこちでざわめきが止まらなくなった。

 ――居心地が悪い……!

 こんなことなら、昼食はどこかで隠れて食べればよかった。
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