契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 火を見るよりも明らかである。
 高確率で『私の方が相応しいじゃないの!』の声が上がりそうだ。
 中には直接攻撃に出る者もいるだろう。
 つまりは希実に身を引かせるため、嫌がらせが横行するのが容易に想像できた。

 ――飯尾さんから略奪するのは難しくても、私からなら簡単そうだもの。

 自分で考えて切なくなるが、冷静に俯瞰した結論だ。
 しかもライバルが役不足だと、怒りに駆られる人間は存外多い。『アレ程度に負けた自分』の価値が暴落するように感じるのでは、と分析し希実は深々と嘆息した。

 ――一応、私は安斎家に迎えられた正式な嫁……その立場が辛うじて私を守ってくれているみたい。

 今の希実は経営者一族の人間である。
 実情はともかくも、そう周囲が思っている限り、軽々しく手を出せないのが現実だ。
 万が一何かして希実を傷つけた場合、夫である本部長の東雲を怒らせることになる。
 ひいては社長の不興を買うに決まっていた。
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