契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 掻き込むように昼食を食べ、希実は素早く社食を去ろうとした。話しかけられる前に逃げる心づもりで、ちゃちゃっと食器を片付け出口へ向かう。
 だがその前に数人の女性社員に取り囲まれた。

「ちょっといい?」

 駄目ですと即答できたら、どれだけよかったことか。
 口は笑いつつも眼が暗殺者じみた彼女たちに、希実が言い返せるわけもない。

「時間は取らせないわ。聞きたいことがあるの」

 美人揃いの女性たちは、秘書課や受付の精鋭だと思われる。
 全員花蓮に負けずとも劣らずの華やかさと美貌を誇っていた。そして、己の容姿に絶大な自信を抱いているだろう点も、同じだ。
 隙のない化粧と、洗練された格好。自分を引き立てるものが何か、よく知っている。
 希実は一瞬の間に、自分が『値踏み』されたのを感じた。

「小耳に挟んだのだけど、朝から広まっている噂は本当なの?」

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