契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 じっとりとした眼差しが突き刺さる。
 食堂にいる他の社員たちも、こちらに注目していた。
 衆人環視の中で、あからさまな嫌がらせをされることはないだろう。
 だが、複数人に取り囲まれて身体が勝手に怯えてしまっている。
 腰が引けた様は傍から見ても明らかで、彼女たちが嘲りの笑みを滲ませたのが希実にも見えた。

「ちょっと、何とか言いなさいよ」
「聞こえないの?」
「無視するなんて、いい度胸じゃない」

 俄然勢いづいたのか、中心に立っていた女性が顎をしゃくる。
 美しくルージュの塗られた唇が、皮肉げに歪められた。

「私たちは質問しているだけなんだけど、答えられないの?」

 静まり返った食堂内が、事の成り行きを固唾を飲んで見守っている。
 しかし希実を案じているのではなく、大半が下世話な好奇心によるものだった。
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