契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「はぁ? とぼけるつもり? 安斎さんとのことに決まっているじゃない!」

 だがそんな努力も虚しく、甲高い罵声に背筋が凍る。
 気圧され、顔が強張って血の気が引いていった。

「あなたたちが結婚したって、ただの噂なんでしょう? だって全く釣り合っていないものね」
「飯尾さんならまだしもねぇ」
「あんまり言ったら可哀相よ。本人が一番分かっているんじゃない? 何も言い返してこないんだもん」

 彼女たちの含み笑いが周囲にも感染する。
 意地の悪い嘲笑が、漣のように広がっていった。

「なぁんだ。やっぱり作り話なんだ」
「――まぁそうよね。私なら逆に恥ずかしくなっちゃうなぁ」
「案外自分で言い触らしたのかもよ? 妄想拗らせていたりして」

 もしも希実と東雲が心底想い合って結ばれていたのなら、もう少し強気になれたのかもしれない。
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