契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ただ一人、飯尾花蓮を除いて。

 ――あれから無断欠勤が続いているのよね……

 一応今のところ有休消化でということになっている。だが連絡なく出社していないことには変わりがない。
 父親である常務から『娘は体調不良』と申し送りされ、人事も頷くより他にないらしい。
 営業事務に至っては、『あぁ……』と引き攣りつつ呑み込む以外術はなかった。

 ――幸いなのは、飯尾さんでないと分からない仕事がなかったことかな……

 ほとんど雑用や簡単な業務しか担わず、面倒な内容は希実に丸投げしていたことが功を奏したと言っては、あまりに皮肉だ。
 しかし現実問題、彼女がいなくて大混乱という事態には陥っていなかった。

 ――私の仕事は増えて大変だけどね……でもその分同僚の皆が同情してくれて、東雲さんとのことで嫉妬を向けられずに済んでいる。

 不幸中の幸いだ。それとも怪我の功名か。
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