契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 眼鏡のままでも支障はない。だが自分なりに一歩踏み出してみたくなった。
 東雲が勇気をくれたのは言うまでもない。
 彼が希実を『可愛い』と繰り返し言ってくれ、味方になってくれたから、希実も変化を求めたのだと思う。
 心の奥底ではチャレンジしてみたかったことに気づくことができたのだ。
 そこで、彼が自室でリモート会議中にこっそり眼科を受診した。
 東雲が希実の不在に勘付く前に帰宅できたのは、幸いである。

 ――私が突然コンタクトレンズに変えたら、東雲さんは何て言うかな……か、可愛いって言ってくれるかな……

 仕事を終えた彼に促され、マンションを出たのは昼過ぎ。
 昼食を途中で軽く済ませ向かった先は、去年出来たばかりの商業施設。
 沢山のアパレルショップは勿論、国内唯一の出店となるスイーツ店や、伝統工芸を今風にアレンジしたアンテナショップなどが並んでいる。
 空中庭園があるため緑を楽しむこともでき、家族連れにも人気が高い。
 希実一人であれば、絶対に足を踏み入れようとは考えない洒落た場所だ。
 訪れる人々も皆、流行に敏感な者ばかり。誰もが思い思いに着飾って、自信ありげに見えた。
 そういう中であっても、一際目立つのが東雲なのは言うまでもない。
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