契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ただ歩いているだけで注目を集める彼は、道行く赤の他人をいったい何人振り返らせたことか。
 老若男女問わず、虜にする。
 初めは『すごいな』と純粋に感心していた希実だが、次第に隣を歩くことが辛くなっていったのは当然の成り行きだった。
 誰もが東雲の美貌に見惚れ、その次に横にいる希実を訝しげに見る。
 中には歪に嗤う者もいた。
 そんなことが繰り返されると、脚が鈍るのは仕方あるまい。
 段々彼の真横から離れてゆき、一歩引いた立ち位置になり、そこから少しずつ距離ができた。
 一度意識し出すと、もう隣にいる勇気なんて持てなくなる。
 到着して三十分も経たないうちに、希実はさりげなく東雲から離れていた。

「……どうしたの?」

 希実のあからさまな不自然さに気づかぬ彼ではないので、問いかけるタイミングを窺っていたのかもしれない。
 ついに耐えきれなくなった様子で、立ち止まりこちらを振り返ってきた。

「えっ、どうもしませんが」
「だったら何故どんどん遠くへ行くんだ。寄りたい店があったのなら、声をかけてくれたらいいのに」

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