契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 希実を傷つけるのを目的にした言葉が、見事に突き刺さる。
 鋭利な刃物として、急所を抉られた。
 いくら希実が己を鼓舞しても、弱さの全部を覆すことはできない。
 懸命に踏ん張った足元が崩れるのに似た錯覚に襲われた。

「東雲さんの妻の座を狙っている女は大勢いるわ。断ると角が立つお相手だって少なくない。だから適当な弾除けが欲しかっただけじゃない? 流石に私にその役目を担わせられなかったのねぇ」

 未だ自分が特別だと信じて疑わないのか、花蓮は「あの人ったら優しいんだから」と呟いた。
 底意地の悪さの滲んだ横目で、希実を甚振る。こちらが泣き出すのを、今か今かと心待ちにしているのが丸見えだった。

「……お話はそれで終わりですか? だったら私は席に戻らせていただきます」

 これ以上、花蓮と対峙していては無様に泣いてしまいかねない。それだけは避けたくて、希実は奥歯を噛み締めた。
 一言言い返したい欲はある。
 たとえば『ご自分なら相応しいとおっしゃりたいのですか?』と皮肉の一つでも絞り出せれば、多少の溜飲は下がったかもしれない。
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