契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 もし彼が希実を騙しているなら、平然としていられる演技力は感服ものだ。尊敬に値する。

 ――でも……始まり方からして私たちはお互いを利用しようとしていた……だとしたら、私が被害者ぶるのもおかしな話だわ……

 希実が東雲を愛してしまったから、裏切られた気分になる。
 さりとて、彼を責めるのも何かが違うと思った。

 ――忘れてしまいたかったけど、私たちは所詮『契約』から始まった関係なんだ……

 ならば東雲が希実を隠れ蓑にしてかつての婚約者を取り戻そうとしても、糾弾されるいわれはない。
 そう考えると、出張中の彼に問い詰めることなんて、とてもできなかった。

 ――だけど悩むのもあと少しで終わり。

 東雲が戻れば、これ以上引き延ばせない。現実的にも、希実の心情的にも。
 幕が下りる瞬間は確実にやって来る。その時を待つしかない自分に嫌気がさし、仕事を終えた希実は帰り支度を始めた。

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