契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「待ちなさいよ!」
「……つっ」

 衆人環視の中、無理やり腕に掴みかかられた。
 花蓮の長い爪が希実の肌に食い込む。痛みに呻き手を引こうとしたが、眼を血走らせた彼女の力は相当なものだった。

「まだ話は終わっていないわ!」
「私は飯尾さんと話すことがありません」
「生意気言っているんじゃないわよ。ブスが私に逆らわないで!」

 すっかり我を忘れた花蓮が片手を振り上げる。
 もはや大勢に見られていることも分からなくなるくらい、興奮しているらしい。
 周りの人間は呆然と立ち竦むばかり。殴られると覚悟して、希実は強く眼を閉じた。

「僕の妻に何をしている」

 だが痛みの代わりに降ってきたのは、優しい声。
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