契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 低く艶のある美声は、いつも希実を癒してくれたもの。
 次に会う日を恐れていたはずが、短い言葉を耳にした瞬間、懐かしさに涙腺が緩んだ。

「東雲さん……っ」

 まだ関西にいるはずの彼が何故ここにいるのか、分からない。
 混乱のあまり何度も瞬く。
 それでも、瞳に映る光景は変わらなかった。
 顔面蒼白になった花蓮と、その手首を拘束する東雲。
 周囲は完全に沈黙している。誰も動き出すきっかけを掴めぬまま何秒経ったのか。
 東雲がため息交じりに辺りを睥睨すると、呪縛が解けたかのように皆がそそくさと動き出した。
 あっという間にエントランスホールからひと気はなくなる。
 希実と東雲、花蓮を残して。

「ここではまた人目につく。行きましょう」
「え……どこに」

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