契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 花蓮の手首を掴んだ状態で歩き出した東雲を、希実は慌てて追いかけた。
 その手の引っ張り方には容赦がない。
 いつも希実と手を繋いで歩いてくれる気遣いは微塵も窺えず、『連行』と呼ぶのが相応しかった。
 しかし通常なら文句を喚き散らしそうな花蓮は、引き摺られながらも黙って歩いている。未だ立ち直れていないのか。
 どこか呆然としていた。
 やがて到着したのは、地下倉庫。
 不本意ながら馴染みの場所、もしくは因縁の地と言うべきところだった。

「――さて、先ほどの騒ぎはいったいどういうことですか」

 東雲が丁寧な口調で話しているということは、質問されているのは希実ではなく、花蓮だろう。
 だが当の本人は忌々しげに明後日の方向を向いた。

「飯尾さん? 僕には貴女が妻を人前で罵倒し、殴ろうとしているように見えましたが?」
「それは……っ、か、彼女が私を怒らせるのが悪いのよ!」

 あくまでも自分に非はないと信じているようで、花蓮は消沈した態度から勢いを取り戻した。
 希実を睨み付け、歯を剥き出しにする。
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