契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ――断れば飯尾さんだけじゃなく他の人にも迷惑がかかるし、資料を持ってくるだけならいいかと思って引き受けてしまったけど……目当てのファイルが見つからなくて手間取っている間に、こんなことになるなんて――

 うす暗い倉庫の奥でごそごそと段ボールを漁っていた希実は、背後で扉が開かれる音に気が付いた。
 けれどその時点では、『ここに誰かが出入りするなんて珍しいな』程度の感想しかなかったのだが。
 今は、物音ひとつ立てられずにいる。
 倉庫の奥まった場所に身を潜め、既に何分経ったのか。
 今考えれば、人の気配がした時点で自分の存在をアピールしておけばよかったのだ。
 そうすればこんな窮地に追い込まれることにはならなかった。

 ――今更後悔しても遅すぎる……!

 もう声を上げるタイミングは完全に逸していた。こうなっては全力で空気になるしかない。それ以外、希実が無事に現状を脱出できる策は思いつかなかった。
 何故なら現在倉庫の中にいる人間は三人。
 うち一人は、当然ながら自分である。
 つまり他に二人の人物がいるのだが――
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