契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ――駄目。どちらにしてもこの会社にいられなくなっちゃう……!

 常務の娘に睨まれれば、特別優れたところがない希実に社内で居場所があるとは思えなかった。
 友人も頼れる上司も思いつかない。
 つまり困った時に庇ってくれたり、手を差し伸べてくれたりする存在を期待できないのだ。
 正に万事休す。
 蒼白になった希実は小刻みに揺れる眼差しを東雲へ据えた。

「わ、私はこの件を誰にも話しませんよ……? 安斎さんも、わざわざ人に明かしませんよね……?」

 祈る気分で彼の顔を窺う。
 どうか『いい人』だという印象を裏切らないでくれ。そんな願いを込め、希実はぎこちなく口角を綻ばせた。

「ええ。ただし佐藤さんが僕のお願いを聞いてくだされば、ですが」

 ――終わった。

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