契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 今度は一言一句希実の脳へ突き刺さった。
 眼を見開き、あり得ない提案をする男を見返す。
 彼は極上の笑みを浮かべ、その秀麗すぎる顔貌をこちらの耳に寄せてきた。

「ずっととは言いません。期間限定で――そうですね目安は三年。問題なければ更新制でいかがです?」

 いかがもへったくれもない。そう叫びたいのに、希実は驚愕のあまり言葉をなくした。
 想像の斜め上の事態に、頭がフリーズしている。
 自分の処理能力を遥かに超えた現実は、まるで悪夢同然だった。

「報酬は充分支払います。婚姻継続年数によって、別れた後も不自由がないようにしましょう。佐藤さんの生活へ影響は最小限に抑えますし、もし異動したいなら便宜を図りますよ」
「け……結婚ってそんなものではありませんよね……?」

 業務契約ではあるまいし。
 そう笑い飛ばせたら、どんなによかったか。
 けれど希実の口から漏れたのは、か細い呻きでしかなかった。

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