契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「いい加減にしてください。仕事中ですよ?」
「東雲さんがハッキリしないからでしょ。私の気持ち、知っているくせに!」
「ですから、何度も貴女と交際する気はないとお断りしているはずです。それなのに強引にこんなところへ連れ込んで、これ以上何を話すつもりですか?」
「ひどいわ! 私にそんなに冷たい態度をとるなんて……!」

 絶賛修羅場中だ。
 いくら男女交際の経験が皆無の希実にだって察せられる。
 今言い合っている二人は、いわゆる痴情の縺れという事態ではないのか。

 ――しかも東雲さんって……安斎本部長だよね? あまりない名前だし、この声は間違いない。それに相手の女性は……
 希実は恐々肩越しに振り返った。

 ここからなら出入り口付近にいる二人から死角になる。
 それでも絶対に見つかりたくない気持ちが強く、不本意ながら盗み見る形を取らざるを得なかった。

 ――やっぱり……飯尾花蓮さんだ。
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