契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ――地元に帰りたくない……いったいどうしたらいいの。

 グルグル考えて、既に時刻は二十時過ぎ。
 今日の仕事はどうにか終えたが、いつも通りだったとは断言できない。
 気づけば希実は、静まり返ったオフィスにポツンと取り残されていた。残業している者もいるが、大半の社員は帰宅している。
 隣の席の花蓮も、定時と共に帰っていった。

 ――安斎さん、今日の就業後に改めて話をするって言っていた気がする。で、でも私が待つ必要は……ないよね?

 律儀な性格が災いして、一方的に交わされた約束でも無視できないのが、希実である。
 あの後心ここにあらずなのも原因の一つだが、こんな時間まで何となく居残ってしまった自分を罵倒したい気分になった。

 ――馬鹿正直に待ってどうするの。ううん、私は決して安斎さんを待っていたわけじゃなくて、飯尾さんのミスを修正していただけのはず……だよね?

< 40 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop