契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
『そんなことを言って、嫁ぎ遅れたらみっともないじゃないの! ご近所さんに何て言われるか……昨日は隣の奥さんに希実のことを厭味ったらしく聞かれたのよ? まったくもう。自分のところだって嫁に出ていかれたくせに……!』

 いつもの愚痴が始まってしまった。
 うんざりするが、母が満足するまでこちらから通話を切ることは許されない。
 そんなことをすれば、後日数倍の長い文句がぶつけられるのが関の山だ。
 希実は半ば意識をぼやけさせ、相槌を打つだけに徹するのを決めた。

「うん……うん。お母さん、大変だね」
『本当よ。だから希実も早く結婚なさい。前回こっちに来た時にちょっとだけ話をしたでしょう? あれ、真剣に考えてみた?』
「それって、まさか……」
『そう、本家の坊ちゃんとの縁談よ! こんないい話、なかなかないわよ。あちらもねぇ、希実が一つでも若いうちにって言っているのよ』

 上の空で返事をしていたが、希実は一気に現実へ引き戻された。
 やはり両親はかなり乗り気だったのだと分かり、肝が冷える。
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