契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 あくまでも冗談や『言ってみただけ』だと信じたかった。
 自分とは考え方が悉く合わない親でも、娘を最悪の相手へ嫁がせる真似はしないと。
 しかし甘かった。
 彼らには己の見栄や周囲の同調圧力に合わせることの方が大事なのだ。
 希実個人の幸福より、共同体での立ち位置を重要視するのだと、図らずも突き付けられてしまった。

 ――何か……すごく疲れたな……

 気力が根こそぎ奪われる。
 希実は壁に寄り掛かり、脚を止めた。
 これでは次に里帰りしようものなら、本当に縁談を纏められかねない。
 彼らなりの善意とお節介により、希実の人生は望まぬ方向へ力ずくの修正をされるに違いなかった。

 ――どうすればこの危機を抜け出せる?

『奥手な希実のことだから、私たちが手を貸してやらないとね。次の長期休みは戻ってくるんでしょう? その時までに恋人がいなければ、本家の坊ちゃんとの話を具体的に進めるわよ』
「……あ、ごめんね。充電が切れそう」

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