契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 車には全く詳しくない希実にも明らかに高級車だと分かる。
 革張りのシートは座り心地がよく、重厚感のある内装と広々とした快適な空間。
 車内は、東雲が愛用する香水と同じ香りが漂っていた。

「それじゃ、行きましょうか」
「ど、どこへですか?」

 そしていつの間に自分は彼の車に乗ることになったのだろう。恐ろしいことに、記憶が飛んでいた。

「ゆっくり話をしたいから、落ち着ける場所へ。心配しなくても、佐藤さんの許しを得ず不埒な真似はしません」

 紳士的な微笑みを向けられ、現金にも鼓動が跳ねた。
 別に希実はいかがわしいことをされる不安に駆られていたのではない。だがそういう妄想を抱いたと誤解されたくなくて、妙に慌ててしまった。

「わ、私はそんなつもりじゃ……」
「分かっています。冗談ですよ」

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