契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 音もなく車が発進する。
 振動はほとんどなく、まるで路面を滑るよう。
 こんな乗り心地を体験したのは初めてで、希実は余計に混乱した。

 ――どうしてこんな展開になったんだっけ……?

 さっきまで、母と電話していた。そして自分の将来に関して、絶望感に苛まれていたのに。
 今は尋常ではない美形かつ、上司の運転でどこかへ移動している。
 呑み込めない状況に希実の頭は空回りする一方だった。
 だがそんな中、天啓の如く閃いた一つの可能性がある。
 最悪の未来を回避するためにできること。
 希実に選べる最良の方法とは――

 ――難癖付けようがない相手と、本当に結婚してしまえばいい。幸いにも最高の適任者がいるじゃない――

 馬鹿げた考えだと、分かっている。
 人として、越えてはならない一線だ。
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