契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 誘惑は甘い。
 甘美に心を揺らす。
 次第に天使の声が小さくなってゆき、希実は慌てふためいた。

 ――が、頑張って純真な私……! どう考えても、常識的に駄目でしょう。結婚だよ? 損得で決めていいことでは……

『それじゃ黙って、好きでもない四十オーバーのアル中暴力男と結婚するの? 結局誰彼構わずいい顔したいだけのくせに、いい子ぶっちゃって。馬鹿みたい』

 己自身の台詞に抉られる。
 突き詰めれば希実は、『気弱』なのを理由に色々なことから逃げていた。
 揉めるよりは自分が我慢してしまった方が楽。いい子ぶっていると言われれば、その通りだからだ。

『耐えている振りしても、最終的には自分で選んだことだよ? だったら、被害者ぶらないでよね』

 致命傷だ。ぐうの音も出ない辛辣な意見は、悪魔の言葉か天使のものか。
 されど、どちらから発されたものであっても、同じことだ。
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