契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ずっと眼を背けていた事実を、暴かれた。
 いや、本当は以前から希実だって分かっていたのだ。自身の狡さや矮小さを。
 本気で自らと向き合って、これ以上ごまかせなくなっただけ。
 人とぶつかりたくないあまり、己を殺したのは他でもない希実自身。言い訳できない事実に泣きたくなった。

 ――どの道を選んでも別の辛さがある。だったら――せめて……

 無意識に拳を握り、歯を食いしばる。
 これから自分がしようとしている選択を、口にするのが恐ろしい。きっと後戻りはできない。
 それでも、後悔はしたくないと心底願った。

「付きました、どうぞ」

 到着したのは、某有名ホテル。
 慣れた様子で車を降りた東雲は、スタッフにキーを預けて希実へ手を差し伸べた。

 ――こ、これは手を握り返した方がいいの……?

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