契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 とりあえず、自分がとんでもない場面に居合わせてしまったのは揺るがない事実だった。
 お似合いで結婚秒読みと言われている二人が、実は親密な関係ではないだなんて。
 できれば知りたくなかった。
 知ったところで、希実にとってプラスになることは一つもないと肌で感じるからだ。

 ――だって、飯尾さんは安斎さんと付き合っているってあちこちで公言していなかった?

 社内の噂話に疎い希実が聞きかじっているくらいだ。
 もはや知らぬ者はいないほど浸透している話に決まっていた。
 しかしその前提が真っ赤な嘘なら、一体これはどういうことなのだろう。
 混乱の極致で、希実は必死に頭を働かせた。

 ――まさか……飯尾さんが外堀を埋め、既成事実を作ろうとしていたの……?

 意中の相手である東雲を手に入れるために。
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