契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~

 ――いやいや流石に考えすぎだよね? 一歩間違えたら自分だって大火傷を負う。だけど……そのリスクを冒してでも安斎さんと結婚したいと望んでいたとしたら――

 あり得ない話ではない。
 何故なら彼はこの会社の社長の息子。いずれ継ぐことが決まっており、弱冠二十九歳にして本部長という役職についている。
 しかも父親の威光を受けてその座にいるのではなく、自らの有能さを示した結果、異例の出世を遂げているのだ。
 営業部にいた東雲が他部署へ異動するまで、毎月トップの成績を誇った伝説や、企画部ではいくつものプランを成功に導いたことは記憶に新しい。
 海外支社にいた頃には、僅か一年で売り上げを倍にしたとか。
 しがない一般社員であり、営業事務の希実にとっては、まさに雲の上の人だ。
 優秀で華やかな経歴を持つ人物。しかも外見は極上。
 日本人らしからぬ彫の深い顔立ちに、上品な焦げ茶色の髪と瞳。長い手足と引き締まった体躯。
 穏やかな口調と美声だけでも、相対した女性陣は頬を染めずにはいられない。
 気品溢れる佇まいは貴公子然としつつ、それでいて経営者になるのに相応しい鋭さも兼ね備えていた。
 端的に言えば、途轍もない美形である。
 家柄よし。才色兼備。更には誰に対しても丁寧な物言いをする物腰の柔らかさ。
 偉ぶらず、自ら「本部長なんて堅苦しく呼ばず、安斎さんと呼んでください」と言うくらいなのだ。
 これでモテないはずがない。
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