契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 どちらかと言えば神獣などの非実在の存在感がある。だが馬鹿げた妄想を口にするのは憚られ、希実は曖昧に濁した。

「あ、安斎さんは絶対にそんな不埒な真似をしないと信じています」
「信用してくれるのは嬉しいですが……僕も一応男ですよ?」
「ぇっ」

 不意に甘さを帯びた声音が希実の鼓膜を擽った。
 そこからじわじわと熱が滲む。
 向かいに座る彼は、相変わらず品よく微笑んだまま。ただし、ほんの僅か危険な色を孕んだ気もした。
 微かに瞳が鋭くなる。視線の圧が変わり、空気に濃密な何かが漂った。

 ――また揶揄われただけ……だよね?

 動揺した希実が口元を引き攣らせると、艶めかしさは消えていた。
 さも何事もなかったかのよう。
 実際、特に何もなかった。ただ希実が戸惑ったのみ。
 それなのに暴れる心音はなかなか鎮まってくれなかった。

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