契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「ど、同居は……やはり必要ですよね……」
「ええ。別居婚はいらぬ憶測を呼びます。心配なさらなくても、今すぐとは言いませんよ。それにお互い暮らしやすい物件を探しましょう。二世帯住宅のような、あまり干渉しない造りなら如何ですか」

 それなら、希実も身構えずに済む。同居は仕方ないにしても、やはり男女二人で暮らすのはハードルが高いのだ。

「詳しい契約内容を詰めましょう。正式に文書に落とすのは後日にして、希実さんの希望条件を聞かせてください」
「え、ぁ、ふぁ、はい……っ、そ、それよりも私の名前を……っ」
「籍を入れれば貴女も『安斎』です。いつまでも佐藤さんと呼ぶのはおかしい。今のうちから慣れてください。それと、僕のことも名前で呼んでくださいね」
「えぇッ」

 驚いたものの、東雲の言う通りだ。
 この先他人行儀に『安斎さん』と呼ぶ方が不自然で、周囲に疑いを持たれかねない。
 大勢の人を騙すのなら、呼び名如きにかかずらわっている場合ではなかった。
 万が一にも偽装結婚の事実を暴かれれば、大変なことになる。希実も東雲も無傷ではいられない。
 数秒考え悩んだ後、希実は渾身の勇気を振り絞った。

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