契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「……し、しの、しのの……っ、東雲、しゃん……っ」
「盛大に噛みましたね。少し練習した方がよさそうです」

 嫣然と微笑まれ、余計に希実の羞恥心が刺激された。もう顔が火を噴きそうである。
 そうでなくても心臓が破裂しかねず、息が苦しい。
 どうにか人間の形を保てたのは、個室に料理が運ばれてきたおかげだ。
 レストランスタッフに救われた心地で、希実は深呼吸を繰り返した。

 ――こ、こんな状態で私今後大丈夫かな……っ?

 ひとまず婚約期間を設けてもらえてよかった。
 でなければ、彼と即同居だ。いくら形だけのものだとしても、男女が一つ屋根の下で暮らすのは、希実にとって難易度が高すぎる。

 ――まして安斎さ……いや、東雲さんとなんて――

 先行き不安になりつつも、しばらくは『婚約者』でしのげるだろう。極力その期間を長引かせればいい。
 そう考え、希実は火照る頬を両手で押さえた。
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