契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 懸命な判断である。
 希実では何かしらボロが出かねないし、言い返せる強さもない。
 言いたいことがあるなら東雲にどうぞと、速やかにスルーパスするのが大正解だ。しかも大半の社員は、彼の元までご意見しに行く勇気はないに決まっていた。

 ――それにしても、流石東雲さんだわ……想定問題とほぼ同じ。そりゃ、私だって無風でいられるとは思っていなかったけど……婚約報告をしたその日に飯尾さんに捕まるとも考えていなかった。事前に準備しておいて、本当によかった……

 しかしいの一番に突撃してくるのが花蓮なのは、当然とも言えた。
 希実と東雲の件は、未だ上層部にしか話が通っていない。勿論、彼の両親には挨拶済みだが、公式発表には至っていないのだ。

 ――でも彼女の父親は常務であり、社長の盟友……うん。隠せるわけがなかったわ。

 そんなこんなで今日くらいは静かに過ごせるものとして油断していたところ、見事に拉致同然に倉庫へ押し込まれたのである。

「東雲さんに聞きたくても、今日は朝から来客や会議が多くて、接触できないのよ」

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