契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 果敢にもチャンスさえあれば突撃する気満々らしい。
 花蓮のそういう行動力の高さは尊敬する。
 だが別のところで発揮してくれと思わずにはいられなかった。

「……私からお話できることはありません。結婚を約束したという事実が全てです」

 これは嘘偽りも誇張もない真実だ。
 本当に希実には、これ以上語れる内容がないのである。東雲との間に馴れ初めも思い出もない故に。
 いわばペラペラ。突っ込まれては大層困る。

 ――特に飯尾さんには絶対にバレないようにしないと……

 それには極力彼女と二人きりにならないのが得策。
 用心するに越したことがなかった。
 そこで可及的速やかに倉庫から脱出したいのだが、問題は花蓮の方が扉を塞ぐ位置に陣取っていることだ。
 押し退けて出ていく度胸はない。
< 80 / 288 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop