契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 さりとていつまでも彼女の罵倒を受け止めたくないし、そもそも仕事中だ。
 同じ部署の人間が二人揃ってサボるのは完全に駄目だろう。
 焦るあまり希実は、壁にかけられた時計に眼をやった。

「……よそ見するなんて、余裕じゃない。私を馬鹿にしているの?」

 言いがかり甚だしいが、強い語調で詰られると委縮してしまうのが希実の性格だ。
 つい首を竦めた瞬間、花蓮に肩を掴まれていた。

「ねぇ、貴女と東雲さんじゃ似合わないにもほどがあるわ。どうせ彼に頼まれたんでしょう? 私に嫉妬させたいのよね?」

 いったいどう告げれば、彼女に理解してもらえるのか。
 何を言っても負けそうで、希実の眉尻が情けなく下がった。

「黙ってないで、何とか言いなさいよ。そっちがその気なら、自力で調べるわ。婚約は表向きで、実体がないに決まっているもの! 貴女たち、恋人の雰囲気すらないのよ。私の眼を騙せると思わないで!」

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