契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 モテる恋多き女は言うことが違う。
 希実を窮地に追い込んでいるのが花蓮だとしても、いっそ清々しい言い切りだった。
 それに恋人の雰囲気云々を言われてしまうと、反論の余地がないのだ。
 紛うことなく、希実と東雲は恋人どころか友人未満なのだから。
 精々知り合い。
 しかも睦まじい空気感を醸し出せる演技力は希実に期待できない。
 ならば花蓮の言う通り、二人はまるで恋人に見えないということに違いなかった。

 ――不味いわ……今はまだ飯尾さんが疑っているだけでも、段々疑惑が大きくなったらどうしよう……

 バレたら何もかもが根底から揺らぐ。
 人生をかけた大勝負に敗北の二文字はない。これは、希実にとって負けられない戦いだった。

「飯尾さん、私たち本当に……」
「だから、貴女如きが東雲さんの隣に立てると本気で思っているの? 鏡見てから出直してよ」

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