契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 ――よく分からないけど、何か勝手に納得している……? でもたぶん大間違いを犯されている気がする……!

 これは小動物の本能。
 危険を感じ、身体が全力回避したがった。
 だが蛇に睨まれた蛙状態で、希実は直立不動のまま。その間に、花蓮が豊かな睫毛に縁どられた瞳へ、胡乱な色を滲ませた。

「私が全部暴いてみせるわ。佐藤さんの本性を白日の下に晒せば、東雲さんの眼も醒めるでしょう。あなたたちが恋人なんかじゃないと社長が知ったら、婚約だって白紙になるに決まっているわ!」

 高笑いしそうな勢いで、花蓮が悦に入る。
 もはや希実の言葉など、微塵も信じていないらしい。
 自身の考えが正しいと疑っておらず、まして彼女の推測の大半が正解なので質が悪かった。
 偽装が露見すれば、希実の利用価値はなくなる。当然婚約は無意味なものと化すだろう。
 東雲の両親だって希実に悪い印象を持つに決まっている。そうなったら、全てがご破算だ。
 こちらも結婚という隠れ蓑を失って、万事休すになる。
 つまり、全方向丸く収まらないどころか、ちゃぶ台返しの大修羅場だ。

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