契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
「彼女らしいですね。幸い、今日の僕は予定が詰まっていて、顔を合わせる機会はなかったが……社内で騒ぎ立てられても面倒です」

 まさかそんなことはしないだろうと思うものの、断言できないところが恐ろしかった。
 身勝手なところがある花蓮の態度と、倉庫での剣幕が希実の心に影を落とす。
 彼女なら後先考えず問題を大きくしそうな気がしたのだ。

 ――想像もしたくない……だけど否定もできない。

 考えただけで憂鬱になり、先ほどから何度目か知れない溜め息がとまらなかった。

「……飯尾さんの行動力であれば、僕らの周囲を嗅ぎまわるくらいはするでしょうね。さて、どうしましょうか」
「私たちに交流がなかったことなんて、すぐにバレますよね……共通の友人はいないし、行動範囲も重ならない。まず出会う機会がありません。そういう点を指摘されたら……」
「社内でなら面識があっても不思議はありません。それに周到に関係を秘匿していたとしても、自然です。騒ぎになることが眼に見えていたから、正式に婚約するまで秘密にしておきたかったと主張すればいい。それなら、交際の証拠がなくてもおかしいとは言われないでしょう」

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