契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 駐車場内のライトに照らされ陰影が刻まれたせいか、いつも以上に東雲の美貌がくっきりと浮かぶ。
 細く長い指がハンドルに添えられる様も、何故か色気を纏っている。リズムを刻む指先がしなやかかつ官能的に見えた。
 希実は決して面食いではないものの、圧倒的な造形美を前にすればドギマギせずにはいられない。
 しかも狭い密室に二人きりとなれば、尚更だ。
 けれど盗み見るのは失礼だと己を戒め、逸らした視線の先で窓に映る自分と眼が合う。
 そこに座っていたのは、冴えない女。
 黒髪を一つに括り、剥げかけの化粧は下手くそ。地味でこれといって印象に残らない顔立ち。実用一辺倒の眼鏡の方が、よほど目立っていた。

 ――飯尾さんが不釣り合いだと罵るのも当然だわ……こんなダサい女が東雲さんの隣にいたら、悪態の一つも言いたくなるよね……

 ズンと気分が沈む。
 とても直視する気になれなくて、希実はしおしおと俯いた。

 ――改めて他者に指摘されると、傷つくなぁ……実際、飯尾さんは綺麗だものね。東雲さんと並ぶと、眼福の光景だわ。

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