契約結婚、またの名を執愛~身も心も愛し尽くされました~
 彼女は自分の容姿磨きに余念がないので、余計に希実のような女が腹立たしいのかもしれない。
 頑張っていない、と思われているのか。

 ――これでも、昔はそれなりに雑誌を読んだり芸能人を見たりして研究したけど……オシャレって苦手な人間にはどこから手をつければいいのかも分からないんだよね……

 どうせ自分なんて、という気持ちも拭いきれない。
 ようは自信がないのだ。『私が何かしても意味がない』と諦めるのが癖になっていた。

「――決めた。それでは早速行動に移しましょう。希実さんも異論はありませんね?」
「えっ?」

 物思いに耽るあまり、全く彼の話を聞いていなかった。
 だがいつの間にか何かを問われ、同意した形になっていたらしい。

「今日が金曜日でよかった。今夜と週末のご予定は?」
「あ、ありませんけど……」

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